stories

灰色の三陸旅行で出会った愉快なひとたちについて

僕を忘れてくれるまで 足の赴くままに山道を歩いているとあっというまに日は傾いて、北国は日が暮れるのが早いな、と呑気に構えていると、いつのまにやらもう終バスの時刻が過ぎているのだった。弱ったなと思った矢先に、やたらとのろのろ走る乗用車が現れた…

私は眼球

1. 睫毛や砂粒に傷付けられて音を上げるような意気地無しのつもりは無いが、流石に瞬間接着剤をぶちまけられたら為す術もない。同朋多しと言えども瞬間接着剤に固められた眼球なぞ私のほかに幾つあろうか。私は激痛に耐えながら、懸命に泪を分泌した。分泌し…

崖に寝る

1. 車は山道を走っていた。運転するのは見知らぬ男で、私は助手席に座っていた。旅をしているのである。男は運転席の窓を開けていて、車のスピードに合わせてそこから風が強く吹き込んできていた。助手席側の窓は閉めていたが、私の髪の毛は一貫して激しくは…

でたらめでよじれた旋律には、他ならぬ私自身の記憶が生臭く染み付いていた

1. 2015年5月19日の出来事である。バラク・オバマが初めてツイッターに投稿し、エリザベス老女王がアンネフランクの収容跡地を訪問し、橋本元知事が大阪都構想で敗れた頃らしい。しかし世界の動向も日本の動向も知る由もなかった。インターネットも電話番号…

On Reversible Destiny

長かった夏季休暇は終盤を迎えていた。霧雨は降ったり止んだりを繰り返しながら、秋めいた冷気のヴェールを列島に段々と覆いかぶせていた。ふたつの季節の狭間で、海やプールに行く気にも読書や勉強に勤しむ気にもなれなかったが、何もしないと気が塞ぐので…