光を忘れると両脚がぐんと伸びた

1.

光を忘れると両脚がぐんと伸びた。やじろべえのように夜を歩く。裸足が細い道の土を踏み、波紋のように虹色が現れて大地の色を変える。極彩色が仄々と光る。長い脛に光が照りかえる。新たな一歩がまた色を足す。頭は闇に飲まれている。筋の目立つ大きな裸足、分厚い爪のついた指先、地を握っては染め、握っては染める。
 

2.

凍てつく夜明けの欅を垣間見すると、太い枝に真っ白く重たい花の蕾がついている。幹と同じほどの径をした、ぎょっとするほど大きな蕾に惑乱する。誰が欅をたなびかせたのか考えると燃えるように額が熱くなる。曙光が祝福するように白い塊を照らす。枯れ枝が頼りなさげに浮かび上がる。あまりに切なくて呻き声をあげると、蕾はぱっとひらいて飛び立った。蕾は凛とした鶴だった。鶴が空の奥へと溶ける。気づけば頬を涙が伝っている。欅は恥じらうように身をくねらせている。
 

3.

何でもない空のまんなかあたり、何にもない地点から大粒の飴玉がころころと顕現する。ざらめをきらきらさせながらあちこちに跳ね返って、最後に口のなかにぽんと飛び込んでくる。濡れた頬をふくらして受け止めると、口のなかで刹那的に溶ける。甘さが神経を冒す。身体が空間に溶ける。飴玉に踊らされる。大粒たちに突き動かされて痙攣する。指先、足先、頸、憑かれたようなスイング。 ざらめの光が空を埋める。